VOL .27

親父に連れられて

ツーリングは、親父の趣味だ。俺は親父ほどのバイク熱は持ち合わせていない。それでも今回付き合ったのは、春から就職で家を遠く離れるからだった。社会人になったらなかなか帰省できないと先輩に聞いていたので、いわゆる親孝行ってやつだ。

 行き先は、香川県。テレビでうどんの特集をやっていて、「うまそうだな」と言ったらここに決まった。

 大阪からだと香川はそんなに遠くない。出発してから何度か休憩はとったけど、親父と俺はほとんど無口だった。「ちょっと自販機行ってくる」とか、必要最低限のことだけ。人気のうどん屋の列に並んでいる時も無言。食べている時も、「うまいな」の一言のみ。

 こんなんなら、春から遠距離になる彼女とデートでもすればよかった。と考えていたら、親父がおもむろにガイドブックを取り出した。

「ちょっとここ、寄ってみないか?」

 そこは、手袋屋だと言う。時計を見ると、まだ時間もある。ここまで来たら、とことん付き合うか。俺はうなずいて、親父のバイクの後につづいた。

 その店は、東かがわ市の海辺、小さな神社を通り過ぎてすぐのところにあった。ヘルメットをはずして中に入ると、子どもの頃買ってもらった色鉛筆みたいに何種類もの手袋がずらりと並んでいた。他にも、リストマフラーというものもあった。冷え性の彼女に、一つお土産に買おうかな。

「一つ一つ、職人さんの手作りなんですよ」

と、店の人が言った。工房を覗かせてもらうと、職人さん達が小さなミシンに向かっているのが見えた。

 親父はというと、マフラーの前でうなっていた。手袋屋にマフラーがあるなんてな。触ってみると、上質なウールが肌に吸い付いてくる。手袋と同様、色も豊富で親父が悩むのもわからなくもない。

「赴任先、青森県だったよな。青森と言えばリンゴだよな。まだ小学校に入る前だったかな。丸かじりしようとして乳歯が抜けたの、覚えてるか」

 いきなりしゃべり出したと思ったら……。親父は他にも何か思い出したのか、クククと笑いをこらえている。こんな横顔、最後に見たのはいつだっけ。

「青森は、冬は寒いだろ。好きなの選べ」

言われるままに、黒とグレーが入ったマフラーを選ぶ。これなら、スーツでもカジュアルな私服にでも合うと思って。

 帰りの運転中、買ってもらったマフラーが就職祝いだということに気付く。もしかして親父は、このためにあの店に行ったのかもしれない。

「ありがとう」

 俺はつぶやく。風とヘルメットで聞こえるはずないのに、親父は一つ、うなずいたように見えた。

「佩」とは

佩(ハク)とは、江本手袋が「喜び合える手袋づくり」を目指して取り組む手袋ブランドです。

職人を守り育て、地域の手袋づくり文化を未来へと受け継いでいくために、扱う素材、デザインの考え方、色展開、つくる量、手袋職人の社会的地位、そして地域との関係性など、これまでの手袋づくりの全てを見直しました。

江本手袋に勤める65歳の職人は、中学卒業からずっと手袋を作り続けています。

佩は、このような本物の職人たちの手仕事をお届けします。

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