VOL .5

傷心動物園

「海香子、次の日曜日、動物園に行かない?」

 久しぶりに連絡が来たと思ったら、早苗はいきなりこんなことを言う。

「いいけど」

 人は人生に3度動物園に行くと、この前どこかのコラムで読んだ。最初は子どもの時。次はデートで。そして最後は自分の子どもと、ということらしい。

 なるほど、と思っていた数日後に、この早苗のお誘い……。私も2回目はデートがよかったけど、何だか声に力のない幼なじみを放ってはおけなかった。

「これからだんだん寒くなるでしょ? 人肌は無理だからさ。動物に癒してもらおうと思って」

 と、会うなり早苗はそう言って笑った。確かに、ここ香川県東かがわ市にある「しろとり動物園」は、えさやりとか触れ合い体験とかが存分にできることで有名だけどさ。

 これは、やっぱり何かあったな。そう思ったけれど、何も聞かなかった。話したいことがあれば、自分から話すでしょ。物心ついた頃からの付き合いだから、早苗のことはだいたいわかってる。

「似てる……」

 ミーアキャットをなでながら、早苗がつぶやく。

「誰に?」

「好きな人に……。この前、ふられたんだけど」

 ミーアキャットに似てる人間なんて想像しにくいけど、目が大きいってことなのかな。

「それって、半年ぐらい前に話してくれた大西君?」

「ううん、ちがう。高橋君」

 私達は同時にため息をついた。

「来てよかった。癒される……」

 カワウソやトラの赤ちゃん、ヤギやヒヨコなど、いろんな動物と触れ合う度に早苗は元気になっていった。

「ここに来れば、もう恋愛なんてしなくていいかも」

 そんなこと言って、来月あたりにはもう別の人を好きになってるくせに。でも、わかる。かわいい動物達にえさをあげたり、やさしくなでたりしていると、心がスッとゆるんでくるんだ。

「もっと早く来ればよかったな」

 失恋したわけじゃない私も、同感だった。人生に3回なんて言うけれど、人はもっと動物園に行くべきだよ。

「次も付き合うよ」

 また失恋してからってことじゃなくてね。

「でも、やっぱり……」

 早苗が唇をとがらせる。

「デートで来たいよー」

 私は今日二度目の、大きなため息をついた。

「佩」とは

佩(ハク)とは、江本手袋が「喜び合える手袋づくり」を目指して取り組む手袋ブランドです。

職人を守り育て、地域の手袋づくり文化を未来へと受け継いでいくために、扱う素材、デザインの考え方、色展開、つくる量、手袋職人の社会的地位、そして地域との関係性など、これまでの手袋づくりの全てを見直しました。

江本手袋に勤める65歳の職人は、中学卒業からずっと手袋を作り続けています。

佩は、このような本物の職人たちの手仕事をお届けします。

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