VOL .6

秘密のレッグウォーマー

人に言いにくいことがある。それは、男の私が冷え性だということだ。妻にさえ、あえて話していない。

 恥ずかしいことではないとはわかってはいるものの、冷え性だと気付いた時にはもう五十路を超えていて、なかなか表立って話題にはできなくなっていた。思えば言いふらすようなことでもないんだが。

「部長、いつも仕事に熱いですね!」

「部長みたいに熱い人、なかなかいませんよ」

 これが、近年社内でよく聞く私の評価の一つだ。ここまで言われると、暑苦しいと暗に言われているような気もしないが、そんなことはどうでもいい。このせいで、ますます冷え性だとは周りに知られたくなくなった。

ただ、冷えは万病の元と言うし、何か対策を取らなければならない。仕事は座ってばかりなので、まだ秋口でもとにかく社内は冷えるのだ。これまではこまめに立って動くようにしていたが、それもストレスになってきた。そもそも、問題があるのに放っておくのは信条に欠ける。ということで、今年からレッグフォーマーを使い始めた。

 レッグウォーマーと言えば、女性が使うもこもことしたものを想像する人もいるだろうが、私のはちがう。服の上から付けるタイプではなく、もっとシンプルでシュッとしていて、スラックスの下にはけるのだ。オンラインショップで見つけた時は、思わずガッツポーズをしたものだ。これなら、職場でもばれにくそうだ。カラーもブラックにすると靴下と同化してしまう。肌触りも文句なしだ。

「部長、この案件なんですが……」

 部下の高野麻衣さんがやってきた。4歳の子のお母さんで、時々お嬢さんの話を耳にする度に、自分の息子や娘もそうだったなぁと思い出させてくれる。

「あぁ、それは前年の資料で確認できるから担当の林さんに……」

 その時、高野さんが持ってきた書類の束の中から、メモが一枚舞い落ちた。

 慌てて拾おうとする彼女の手が、ピタリと止まる。

「高野さん?」

「部長、もしかして冷え性ですか?」

「あー、最近冷えるからね」

 最近の話でもなかったけれど、無意識にこう口走っていた。

「すてきなレッグウォーマーですね。ファッションのアクセントになりそう」

 高野さんはそう言うと、ニッコリ笑って自分の机に戻っていった。

 アクセント、か。隠そうとばかり思っていた自分には、目から鱗のような言葉だった。今度はあえてブラック以外の物を選んでみようか。職場では難しくとも、私服の時にはなかなかいいかもしれない。

「佩」とは

佩(ハク)とは、江本手袋が「喜び合える手袋づくり」を目指して取り組む手袋ブランドです。

職人を守り育て、地域の手袋づくり文化を未来へと受け継いでいくために、扱う素材、デザインの考え方、色展開、つくる量、手袋職人の社会的地位、そして地域との関係性など、これまでの手袋づくりの全てを見直しました。

江本手袋に勤める65歳の職人は、中学卒業からずっと手袋を作り続けています。

佩は、このような本物の職人たちの手仕事をお届けします。

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