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佩(ハク)の手袋の作り方

佩(ハク)の手袋の作り方

アイテム

出社したらまず

朝は掃除と作業の準備から始まる。何十年も続く習慣だ。「ゴミが出たらその都度掃除するんだけどね」と、職人の新一さんは微笑んだ。

 

生地の裁断と仕上げを担当する新一さんと、縫製を担当する繁子さんは、新しい依頼があればデザインを見ながら簡単な打合せをする。

手袋の作り方は全て体が覚えているので、裁断の形や縫い方に悩むことは滅多にない。

大切にしているのは、そのデザインにどのような想いを込めているのかを知ることだ。デザイナーが持っているイメージと、そのデザインを通じて伝えたいことを頭に思い描きながら手袋に落とし込むそうだ。

 

打合せを終えて持ち場に向かう二人の姿は、息の合った投手と捕手のように見えた。

 

手袋は裁断から

手袋に使用する生地の幅は約140センチ。まずはじめに、生地を作業し易い大きさに裁断する。

この裁断に使うのが、この裁断用の大刀だ。長年使い込んでいることが、ところどころの錆びや木の柄の光り具合から伝わってくる。

 

手袋の生地は柔らかく伸びるものが多い。新一さんは生地を優しくのばしてセットすると、一息に切る。「ザクッ」という鉄の擦れ合う音の後、刃を上げると生地は美しく切られていた。

 

新一さんは普段物差しを持たない。手袋を構成する全てのパーツの形状と必要な生地の大きさが、長年の経験ですっかり頭の中に入っているのだそうだ。

何の迷いも無く次々と裁断していく。

 

荒裁ち

次に「荒裁ち」。ここで使うのがバンドナイフだ。先ほど裁断した生地をさらに手袋の大きさに近づけていく。

 

簡素な台紙を目安に、新一さんは慣れた手つきでスッ、スッ、と切っていく。

 

これはただ単に生地を切れば良いというものではないらしい。新一さんは、江本手袋が抱える全ての内職さんの段取りを考えながら裁断を進めているのだそうだ。

少し詳しく言うと、この地域の手袋文化は内職文化でもある。サンプルや小ロットの生産は全て社内で作るが、ある程度の数を作る場合、工程ごとで4~5件に分業して、それぞれの作業を専門的に行う職人さんにお願いするのだ。

 

本裁ち

次に「本裁ち」。ここでは、金型と圧裁断機を使う。

新一さんは荒裁ちした生地にそっと金型を置いて、圧裁断機にかけた。ペダルを踏むと60年前と同じ「グワシャーン」という音が響き、次々と生地が手の形になっていった。

 

いとも簡単に作業を進めているように見えるが、実はわずかなズレでも手袋のラインが変わってしまう難しい作業らしい。

 

ふと、あること気づき、「その金型はどこに合わせて置いてるんですか?」と尋ねてみた。生地には何の目印も書いていないのだ。

新一さんは少し考えて「うーん…、勘やね。」と言った。

なるほど。一つの作業を極めると見える世界が違ってくるらしい…。

 

金型には様々なバリエーションがある。男性用・女性用の金型や、親指の金型、裾を波形に切る金型や、飾りの生地を切る金型などがある。

 

一区切り、一休み

本裁ちが終わると新一さんの仕事は一区切り。裁断した生地を繁子さんがいるミシン部屋へ運び、綺麗に積み上げる。

丁度いい時間になったので、新一さんは作業台を片付けて3時の休憩。

 

「元野球部だったよー」と好きなスポーツ新聞を見ながらのコーヒーが新一さん流の休み方だ。

ちなみ休日には、カラオケ喫茶で趣味のカラオケを楽しんでいるのだとか。

 

縫い

さて、次は繁子さんの出番だ。

環縫いミシンを使って、手袋の本体、親指、まち、の3種類のパーツを縫い合わせていく。

 

あまりの縫う速さに、何が起こっているのかわからない人がほとんどだろう。繁子さんは、パーツを一瞬でズレなく重ね、こちらが不安になるほどペダルを強く踏み込み、生地のきわどい内側をまたたく間に縫い上げていくのだった。

 

こちらも生地に目印はついていないが、繁子さんには見えているようだ。

カチャ…、ジャー、ジャー、ジャー、ジャー…、カチャ、とミシンのリズムが響く。繁子さんは環縫いミシンで生地を縫い合わせる流れで、一瞬で余分な糸も切り取っていく。

コツを聞くと「着ける人が喜ぶことしか考えてないから」と、恥ずかしそうな表情をこぼした。

 

ここで繁子さんに、手袋の見た目や着け心地を良くするための縫いがあることを2つ教わった。

その1つである「指おさえ」は、親指の付け根を縫う時にできる厚みや段差を無くすために、その周囲をもう一度縫うこと。

もう1つは「またつまみ」という手法。指のまたの部分に角度をつけて縫うことで、手にフィットする手袋に仕上がるそうだ。

 

その縫いは昔、先輩の職人さんに教わったのだという。

 

スクイ

今度はスクイと呼ばれるミシンを使う。

 

繁子さんは何度か糸などを調整して、手袋の裾をミシンで挟み、生地を「クルッ」と回転させた。どうやら曲面に縫えるミシンらしいが、これもまた手品のような動きで驚かされた。

 

縫い終えた部分を見せてもらうと、裾の伸縮性を保ちながら縫い目が表に出ていない。裾も綺麗に縫いあがった。

ここで”縫い”は完了。他にもっと複雑なデザインもあるそうで、どのようなデザインでも繁子さんは縫うことができる。縫いの全工程ができる職人さんも滅多にいないらしい。サインでも貰おうかな。

 

つみ返し

手袋作りもそろそろ終盤に近づく。今度は「つみ返し」の「つみ」という作業だ。

ここで余分な生地や糸を切り取るのだ。ここで失敗したら折角の手袋が台無しになるので注意が必要だ。

 

「これをやってると落ち着くんですよ~」と昌弘さん。

3代目の昌弘さんは子供の頃からこの作業が楽しくて、よく大人と競争したそうだ。

 

不思議な棒

次は「つみ返し」の「返し」という作業に入る。

説明しながら実演してくれた昌弘さんは、木の台に刺さった不思議な棒を取り出した。筒になった棒に手袋の指を入れたと思ったら、スポスポスポと、あっという間に手袋の指をひっくり返した。

…最後に全体をひっくり返し、昌弘さんは満面の笑みで「面白いでしょ?」と一言。何度もやって見せてくれるので、その楽しさが伝わってくる。

「こう、筒の内側に棒を少し引っ掛けるように・・・」とマニアックな説明がまた面白い。

 

仕上げ

そしていよいよ最後の仕上げだ。つみ返しされたばかりの手袋は少し頼りない。

 

手の形に組み合わせた鉄板に縫い目を整えながら手袋をセットして、それを蒸気が出る箱に入れてしばらく待つと、ピシっと指が揃った手袋がついに完成した。

 

それは、何の変哲もない長く大きな生地が、長い旅の中で出会った職人たちの手で、輝きを放つ手袋に生まれ変わった瞬間だった。

箱の横には、完成した手袋の数々が置かれている。夜になるとどこからともなく小人が現れて、手袋を引っ張ったり、中にもぐったりしていても不思議ではない雰囲気があった。

 

想いを込めて

職人さんの横顔に、手袋に込めた情熱と想いを感じる。

記念にと、出来上がったばかりの鮮やかなオレンジの手袋を貰った。何十年も磨き続けてきた職人の技と想いをいっぺんに手渡されたような気がして心が震えた。

この手袋を着けてくれる人の笑顔をイメージしながら作ること。それが「江本手袋が作る手袋は何か違う」と言われる理由だと思った。

手袋職人は、明日も変わらず、人を幸せにする手袋を作り続ける。

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