VOL .43

家族旅行

子どもの頃は大好きだった旅行。でも、大人になって働き出してからは、貴重な休みを返上してまで遠出することがそんなに好きじゃなくなっていた。かと言って、我が子にはやっぱり自分が子ども時代に体験したワクワクを感じさせたいと思う。娘のちーちゃんは、近所の公園でも楽しそうだけれど、お友達がどこか遠くへ遊びに行ったと聞く度に、一瞬寂しそうな顔をするのも気になっていた。

「優花ちゃんの引っ越し先にこんなアウトドア施設があったなんてね。それでも円花がここがいいって言い出すの、意外だった」

 夫はそう言って、車からBBQ用の食材が入ったクーラーボックスを降ろした。優花というのは私の妹で、この春からここ、東かがわ市に旦那さんの転勤で住んでいるのだ。

「キャンプは苦手だけど、グランピングなら気軽にできるかなって。優花の元気な顔も見られたし、来てよかった」

 今日は山田海岸という、美しいサンセットで有名なところに来ている。立ち並ぶテントを見て、ちーちゃんは大はしゃぎだ。

 東かがわ市は、妹がいるということもあるけれど、私達親子が気に入っている手袋屋さんもある街なのだ。さっきまで、優花も誘って工房を見学させてもらい、「香川のてぶくろ資料館」にも行ってきた。平日は仕事が忙しくて、正直なところ家で寝ている方が体は休まるだろうけれど、ちーちゃんの笑顔のためにも今回の旅行はここに決めた。

「ママ、今日はこのテントにお泊りするの?」

 今日のちーちゃんは、朝起きた瞬間から少しも笑顔をくずさない。4歳という自分のこだわりが出始めたお年頃で、思った通りでないとすぐに機嫌を損ねる毎日を過ごしていたというのに。

「そうよ。気に入った?」

 私もグランピングは初めて。子どもにとってはどうかと気にはなっていたけれど……。

「うん! 外国のお姫様のキャンプに来たみたい!」

 ちーちゃんは、そう言って跳びはねた。私と夫は顔を見合わせて笑う。確かに、普通のキャンプよりは贅沢な気分だ。テントも内装も全てがかわいい。

 口コミ以上に、山田海岸の夕日はすばらしかった。瀬戸内海って、こんなにきれいだったんだ。空も海も紅に染まり、知らない世界……だけどどこかホッとするような、それでいて神秘的な空間にいるような気がした。

 BBQの後は、焚き火体験をさせてもらった。さっき見た夕日の光をぎゅっと一つに集めたような炎に見とれる。

「心の疲れ、燃やされてくみたい……」

「そうだな」

 夫も大きくうなずいた。

 娘のために来たつもりだったけど、私が一番この旅行に癒されているかも、なんて思った。

 傍ではちーちゃんが、私の膝にもたれかかりながらウトウトしている。

「楽しかったね」

 炎に照らされた寝顔に、私はそっとつぶやいた。

「佩」とは

佩(ハク)とは、江本手袋が「喜び合える手袋づくり」を目指して取り組む手袋ブランドです。

職人を守り育て、地域の手袋づくり文化を未来へと受け継いでいくために、扱う素材、デザインの考え方、色展開、つくる量、手袋職人の社会的地位、そして地域との関係性など、これまでの手袋づくりの全てを見直しました。

江本手袋に勤める65歳の職人は、中学卒業からずっと手袋を作り続けています。

佩は、このような本物の職人たちの手仕事をお届けします。

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