VOL .47

アイスクリーム

この春から社会人になった長男の祥吾が、うちに帰ってきた。

「せっかくこっちに帰ってきたのに、誰かに会ったりしなくていいの?」

 帰省期間は、たったの4日。初日と最終日は移動にとられるので、ゆっくりできるのは実質2日と言ったところだ。

「明日、里沙と会うし」

 里沙ちゃんというのは、祥吾が長く付き合っている彼女だ。遠距離恋愛になったのだから、2日とも会うのかと思っていたのに、さっぱりしてるもんだな。

 外は、災害級とも言われるほどの猛暑だ。それもあってか、祥吾は朝からソファを一歩も動かない。

「社会人になってから、やっと『休み』の意味がわかるようになったよ」

「どういうこと?」

「体を休める日ってこと」

「それでも貴重な休みなんだから、遊ばなきゃもったいないよ」

 祥吾の妹、まだ高校生の真帆はそう言って、冷蔵庫からアイスを取り出した。

「真帆、オレにもちょうだい」

「私のが最後の一本だったー」

 祥吾のあからさまなため息が聞こえる。

 もしかして、仕事がうまくいってないんだろうか。いろいろと聞いても煙たがられるだけなので、そっとしておきたいけれど、それでも気になるのが親心。

 祥吾は何も言わないけれど、明らかに疲れている。

 まぁ無理もない。これまでずっと実家暮らしだったんだから、一人で生活するだけでも大変なはずだ。

「お母さん、出かけてくる」

「この一番暑い時間に?」

「ちょっと急ぎでね、そこのコンビニだからすぐ帰るよ」

 いつの間にかアイスを食べ終えていた真帆は、最近せがまれてネットで買ったサンダルをはいて出て行った。

 さて、私は洗濯機でも回そうか。やっぱり人が増えると、その分洗濯物は増える。おまけに祥吾は「しそびれた」とか言って、数日分のワイシャツまで持って帰ってきた。

「洗濯洗剤って、いろんなものがあるんだな」

 振り向くと、いつの間にか祥吾がいた。

「あんた、もしかして一種類しか持ってないなんてこと、ないよね?」

「一応、柔軟剤はある」

 オシャレ着用のものとか、ないんだろうなと思ったけれど口には出さないでおいた。

「これは、何?」

「それはね、手袋専用の洗剤。そういうのがあるとね、もっと物を大事にしようって気持ちになれるのよ」

「そういうもん?」

「そういうもんよ」

 帰省して初めて、祥吾のホッとしたような顔を見た気がする。

 何も話してくれなくても、たまにこんな表情を見せてくれたら、いいか。

「ただいま」

 玄関から、真帆の声。もう帰ってきた。

 「お兄ちゃん、これ。これ食べて、あっち戻ってからも頑張れ」

 そう言って祥吾の手に押しつけたのは、アイスだった。

「わざわざ買いにいってくれたの? おまえ、いいやつだな……」

 パッと笑顔になった祥吾を見て、真帆は得意げな顔をした。親の出る幕なんて、もうないのかもしれないなぁ。

 でも、洗濯ぐらいはいくらでも引き受けよう。

 うなりを上げる洗濯機に私の寂しさをそっと隠しつつ、子ども達の成長を誇らしくも思った。

「佩」とは

佩(ハク)とは、江本手袋が「喜び合える手袋づくり」を目指して取り組む手袋ブランドです。

職人を守り育て、地域の手袋づくり文化を未来へと受け継いでいくために、扱う素材、デザインの考え方、色展開、つくる量、手袋職人の社会的地位、そして地域との関係性など、これまでの手袋づくりの全てを見直しました。

江本手袋に勤める65歳の職人は、中学卒業からずっと手袋を作り続けています。

佩は、このような本物の職人たちの手仕事をお届けします。

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