VOL .37

幼なじみから

この春、私は大学生になった。地元の香川を離れ、大阪で一人暮らしをしている。実家にいた頃は洗濯機のボタンも押したことがなかった私だけど、数か月もするとだいぶ慣れてきた。今では毎朝お弁当を作れるほどになったんだ。

 同じ学部に友達もできたし、アルバイト先のレストランでもそれなりにうまくやってると思う。つまり、私は思い描いてた大学生デビューができたってわけ。

「出身、どこだっけ?」

アルバイト先でまかないを食べていたら、先輩に聞かれた。

「香川です」

「香川と言えば、うどんだな。俺、いつかうどん巡りしたいんだよね」

「おいしいお店、紹介しますよ」

 香川を離れてから、何度このやり取りを繰り返しただろう。その度に、誇らしい気持ちになりながらも、どこかモヤっとする。だって、香川ってうどんだけじゃないし。でもそんなこと、顔には出せなかった。

 休みの日は、友達とおしゃれなカフェに行ったり、ホテルのランチに行くこともある。大学の課題は難しいけれど、それも今のところは問題なくこなせてる。私の毎日は、誰がどう見たって充実していた。

 でも、なぜか夜になると、泣きたくなる時がある。何か特別な悲しいことや辛いことがあったわけでもないのに、変なの。

 それからしばらく経ったある日、小包がうちに届いた。

開けてみると、そこにはミントグリーンの手袋が入っていた。

その時、スマホが鳴った。

「もう届いたかな?」

 幼なじみの海香子だった。彼女はこの春から、手袋屋さんの手袋職人として働き始めたと聞いていたけど、まさかこんなにきれいなのを作れるようになるなんて。

「実はそれ、私が作ったんじゃなくてベテランの先輩が作ったの。でも、これを目指して頑張ってるんだよって、早苗に知ってほしくて」

 見ると、手袋に一つ濃いシミが付いていた。それが自分の涙だってことに気付いたのは、しばらくしてからだった。

「早苗、レストランのキッチンでバイトしてるって言ってたでしょ? きっと冬には手が荒れるだろうし、寒くなったら使ってね」

 海香子は私の「ありがとう」も聞かないで電話を切った。後から後から流れてくる涙で汚さないように、私は手袋を両手で包む。

 私、寂しかったんだ。どんなに毎日楽しくても、生まれ育った場所を一人離れて、ちょっと疲れたのかもしれない。

 泣くだけ泣いたら、このミントグリーンみたいに心がスッキリしたような気がする。今度、誰かと香川の話になったら、まずはやさしい幼なじみを自慢するのもいいかもしれない。

「佩」とは

佩(ハク)とは、江本手袋が「喜び合える手袋づくり」を目指して取り組む手袋ブランドです。

職人を守り育て、地域の手袋づくり文化を未来へと受け継いでいくために、扱う素材、デザインの考え方、色展開、つくる量、手袋職人の社会的地位、そして地域との関係性など、これまでの手袋づくりの全てを見直しました。

江本手袋に勤める65歳の職人は、中学卒業からずっと手袋を作り続けています。

佩は、このような本物の職人たちの手仕事をお届けします。

佩はこちら →

他のストーリーを読む

VOL .13

ピンクの手袋

VOL .34

ショートヘアと水色のストール

VOL .41

先輩の横顔